マニュフェスト

マニフェスト
03 /16 2006
皆川 眞澄 『マニュフェスト』
~ミュージカルコース開設によせて

〈プロローグ〉

日本で、ミュージカルが楽しい、面白いと言われながらもいま一つの芸術性と深さに欠けるのはなぜであろうか?

ずばり!それは演技力、表現力の乏しさに他ならないと思うのである。
ミュージカルならば、ダンスができ、歌が唄えるのは当然のことである。
しかし観客はその技術の上手さを観にくるのではない。
上手いなあ~と感心こそすれ、それが感動につながるのは並みのことではない。
観客は、舞台上で演じられるストーリーの中で、人間の真実の姿を観たいのである。
観客が感動するのは、常に人間の真実の姿に他ならない。

多くの劇団があり養成所があるが、演技の根本的な真理を教えているところは皆無である。
そこでは台詞をいかにしゃべるかとか、きっかけをいかにつかむかは知っていても、肝心なことになると曖昧なルールを持ち出すだけで、後は役者の感性に委ねられてしまう。
結局ミュージカルならば、歌と踊りのレッスンに重点がおかれ、演技は二の次になってしまう。
そこに見落とされた悲劇がある。
指導する側も役者の感性に頼らざる得ないところがある。
それは、なにをどうして引き出したら良いのかの演技の真理が曖昧だからに他ならない。
役者はその振りをするだけで、自身の真の感情に触れていないためにおざなりな演技になってしまう。
役者は観客のイマジネーションがいい事にかなり助けられていると思う。

演劇のみならず、あらゆる表現活動における真理に目覚めることで、表現力が増すだけでなく、豊かに生きることができる。
なぜなら人間は表現する生き物だから。
それはすべての仕事に人生に影響を与える事ができるのである。


〈私の演技のルーツ〉

演劇〈総合的演技表現学の広義を含む)というものの持つ重要性を
私はメソッドアクティングから学んだ。
それは究極の人間学だと言い切れる。
演劇という同人的な世界が希求し止まないのもそうであるが、
ニューヨーク ザ・アクターズスタジオはその広義のダイナミズムにおいて頂点に位置するものである。

ロシアのスタニフラフスキーシステムをベースに、演技術や演出法を発展させ明確なメソッドとして確立したマイケル・チェーホフ。
独自の視点を加え更なる発展と実践を試みたのがニューヨーク,ザ・アクターズスタジオの創始者リーストラスバーグである。
私が学んだメソッドアクティングは、このニューヨーク,ザ・アクターズスタジオの本流を汲むメソッドである。

ストラスバーグにピタリと寄り添い、アクティングの真髄を直伝されたゼン・ヒラノ氏。
スタジオ始まって以来、教師になりたくて入門したという人物である。
しかも東洋人では、当時唯一の正会員。
今をときめかす世界的有名俳優でさえ、数回のオーディションは当たり前のところ、一度でパスしたという伝説の持ち主である。
スタジオは常に門が開かれており、会員であれば有名無名を問わず、何時でも学ぶ事ができる。
デビューを果たし一躍スターになったモンローが自分の殻やイメージを打ち破りたくて入門し、スタジオで学んでいた時期に目覚しい成長と変貌を遂げた話は有名である。
NHKのアクターズスタジオインタビューを観ても分る様に、世界的に有名な俳優達のほとんどはここから輩出された。
それくらい俳優の登竜門として有名かつ重要なポストとなっている。
ではなぜ?


『アクターズスタジオ・メソッドアクティングの目指すもの、そしてそれは・・・』

あらゆる芸術活動において最も重要なことは、魂を開放する・・・
と言うことに尽きるのではないかと思う。
表現力の源泉は、Open Upに他ならない。
それは俳優として、〈どんな感情の動きも即表れてしまうような繊細な体を作ること〉身体、表情、爪の先、髪の毛一本に至るまで表れてしまうような存在を意味する。
感受性を極限まで高めていくのである。

そして〈役への深い理解と共感〉によってそれは成就される。
そこではおざなりでない、自分の真実の感情が表現されなければならない。

メソッドアクティング独自のリラックス法を用い、型にはまった日常の身体から、アーティスチックな身体に変容させていく。
微妙な心の変化も直ぐ声に、体に表れてしまうように不用意な状態に置き、心と体を開放していく。
開放された魂からは様々な自分が現れる。

それは今まで一度も出会った事が無い自分かもしれない。
一番見たくない醜い自分かもしれない。
残虐であったり、冷酷であったり、暴力的であったり、、、、
日常では知ることの無かった自分と出会う。
戸惑い否定し暴れる、、、でもそれも紛れも無い自分なのだ。

「きにいらない嫌なヤツのこと、あんなヤツ死ねばいいって思うでしょ。それがあなたよ。」

人は知らない、わからないものに関して恐怖心を抱くものだ。
恐怖から逃れる為にそのものを否定しようとする。
つまり、自分がわからないとは、常に自分を否定し続けているということなのだ。

私の中には、私自信に認めてほしいありとあらゆるものが存在する。
否定しようがしまいが、隠そうが押し込もうが紛れもなく私の中にあるのである。
ヒトラーの暴君性もナポレオンの英雄性も、、、、
自分の中にあるものを徹底的に観て行く。
知り尽くし味わい尽くす。
たとえそれがどんなに醜いものであろうとも、、、、
それを観ないで、先に進むことはできない。
自分を本当に知ることは出来ない。
ただ〈自分を知りたい〉という勇気を持つこと。それが運んでくれる。
自分を知った分だけ他人のことがわかる。
そして、相手の身になって考えることができる。
これは俳優にとってなくてはならないことである。況や俳優でなくても、、、

どんな役であろうと、わが身のこととして共感できなければならない。
たとえ自分とかけ離れた存在であったとしても、同し人間だ。
その人物をその人たらしめている軸となるものを捜し、自分の内面を探っていく。
表現するのは私だ。
私の心と体を、この楽器を使って表現するのだ。
だから自分から出発しなければ嘘だ。
時にそれは自分の中ではガラスのかけらほどしか見つけられないかもしれない。
だが、必ずそれはわたしの中にもある。
様々な角度からアプローチを試みて役に近づいていく。
(このアプローチの方法もメソッドの中にある)

かけらほどのものをどんどん膨らめていくのだ。

人を殺したことがないからこの役はできないといっていたら、どの役もできないのと同じだ。
どんな人間にもその正当性は必ずある。
殺人者は殺人者なりの正当な理由がある。
そこに限りなく共感していく。
一人の人間として深く同情するまでに。
自分と一体化するまでに。

たしかエリア・カザンだったと思うが、
子供を失くした母親がその悲しみをカザンに訴えた。
カザンは母親より深く悲しんだ。
そのあまりにも深い悲しみに逆に母親のほうが癒されてしまった。
ということだ。
他人のことを我が事のように、いやそれ以上に感じることができることこそ最も重要なことなのだ。

・人の喜びや悲しみを我がことのように感じることができること。
・あらゆる感情をあるがままに表現することによって、本来の自分自身 を知ること。
・人との関係性の中でこそ、自分が成長できる事を知ること。
・自分独自の発想や考えを大切にし、創造性を養うこと。

目指すは〈荒削りだがタッチングな演技〉

これは人生でも本来の人間が目指すべき、目指したい生き方ではないだろうか?



〈アクティングの訓練は人間形成そのものだ〉

天から与えられた才能、素質を延ばし(知識や技術)それを邪魔するもの(内面的問題)を解決していく。
それは失敗に対する恐れであったり、屈折した感情、トラウマ、魂の癖等が自由な表現活動への足かせになる。
メソッドアクティングを通して、技術の習得とともに、個々の内面的問題をも解決していく。
それはあたかもパンドラの箱を開けるような作業かもしれない。
しかし感情を開放し表現することにより、その傷は昇華されていく。
自分の行動の原因が明らかになり、事物に対する洞察力が高まる。
自分を知ることにより安心感が湧き、自信が溢れてくる。
そして、自分を信頼できるようになる。
自分を信頼できる人は、常にベストを尽くそうと努力する。
ベストを尽くす事で才能が磨かれ、次の課題が見えてくる。
本当の自分に目覚めることで、自分が何を望んでいるかが明確になってくる。
こうして人生は生き生きと、自分を高みへと連れて行ってくれる。

どんな仕事であれ、それは自分自身の表現と成長の場である。

況や、今や教育の現場では、以上を蔑ろにした別の方向に進んでしまったための弊害が社会現象となって表面化している。
このメソッドを通じて、輝きを・自由を・生き生きさ・を取り戻してほしい。

私は俳優・歌手という仕事を通じて、人を喜ばせながら人間修行できることを大変しあわせに思っている。
どんな仕事でもそうなように、その仕事は究極的にはツールに過ぎず、
仕事を通じて社会に奉仕し人として成長していくのであると思う。
だからその道に終わりは無い。それは果てしない物語。

今や私はそのきっかけを与える術を知っている。
私がかつてそうだったように、、、そして生きる意味を取り戻したように、、、
知ってほしい。
自分とは?生きるとは?なんであるのかの命題を捜す旅があるということを・・・




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